特集AIのいまと未来
コンピューターの小型化?高速化と、インターネットの普及によって急速な進化を続けるAI技術。すでに世の中で活用されているAIと、AIのこれからについて、名城大学理工学部の福田敏男教授に話を聞いた。
名城大学理工学部 メカトロニクス工学科
福田 敏男 教授
toshio fukuda
生活の中にあるAI
AIの代表格であるコミュニケーションロボットなどのイメージは、AIの中でもごく一部のもの。AIの第三次ブームと言われる昨今、AIはすでに生活のさまざまな場面で活用され始めている。
電話回線の接続
電話をかけるとき、裏側ではどのような手順が発生しているかご存知ですか? 発信者がダイヤルすると、発信場所から近隣の交換機(携帯電話の場合は基地局)が電話番号を識別し、相手の交換機に接続して電話を呼び出す。簡単な流れのように見えますが、実はこの「接続経路」は、ひとつだけではありません。全国には電話回線とその中継器が数え切れないほど設置されていて、国内だけでも何万以上もの接続パターンが存在します。そこでAIが回線の混雑具合を瞬時に判断し、いくつもの接続パターンからもっとも効率のいい回線を導き出しているんですね。近年、携帯電話やIP電話(ひかり電話)、インターネットの普及により「通信」の量が増え続けていますが、あらゆる通信をシームレスに接続するため、今やAIは欠かせないものとなっています。
日本メーカーの白物家電
意外かもしれませんが、日本の家電メーカーは早くからAIの研究に力を入れていました。わたしの記憶では、1980年代に「コンピューターが汚れを感知して洗う」という洗濯機が登場していたはず。最近の洗濯機には、洗濯物の汚れ具合によって洗う時間を自動で調整してくれるものもありますね。食材を見極めて温度?湿度を変化させる冷蔵庫や、ホコリが多い場所で吸引力がアップする掃除機など、機能性豊かな家電は日本メーカーの長年の研究によるものだと感じます。
家中の家電が人工知能により自発的に考え、快適な空間を提供してくれる未来は、そう遠くないかもしれません。
ネット通販のサジェスト機能
インターネット通販で商品を購入しようとすると、同じページに「この商品もオススメです」と表示されますね。あの機能もAIの一種で、これまでの購入履歴や閲覧履歴をもとに客の興味を引く商品を表示することで、購買意欲を高めるために導入されています。似たような機能はネット広告でも広く利用されていますし、検索サイトでも、利用者の検索傾向や現在地などから個々人にカスタマイズされた検索結果が表示されるようになっています。
AIが自動車を変える
世界中で自動運転が話題を集めている。各自動車メーカーは、完全自動運転ではないもののAIが搭載された車を次々に発表。自動車のエレクトロニクス技術の進化とその先にある未来とは???
キーワードは Cars that think and communicate.
自動ブレーキシステムや自動追従?追尾システムを搭載した車は、もはや当たり前の時代。いよいよ世の中は本気で完全自動運転の実現化に向けて動き出しています。そうした未来を迎えるにあたり、自動車技術会エレクトロニクス部門委員会が掲げているのは「Cars that think and communicate.」との考え方。「自ら考え、互いがコミュニケーションし合う車」という意味です。わたしたちが運転するときは、曲がるときや道を譲る際、相手の表情や態度から互いの出方を探りますね。それと同じことで、車同士がコミュニケーションを図ることができれば、相手を気遣いながら譲ったり、譲られたりといった自動運転が可能になる。車同士の意思疎通により、事故の確率が劇的に低くなると期待されています。
2040年までにはそうした車を実現化できればという方向で動いていますが、それが現実となった場合に課題となるのが、AIを搭載した新しい車と、これまでの古い車が混在すること。動かし方の違う種類の車が同じ道路を走る場合の危険性などについては、これから十分に議論する必要がありますね。
自動運転の実現は、地域課題解決の糸口にも
自動運転であれば運転手は必要ないわけですから、きっと今よりもコンパクトな車の開発が進むでしょう。お年寄りの移動手段として、一人乗り自動車の需要が高まるかもしれません。自動運転による安価で安全な移動手段は、過疎が進む地域において新しいモビリティーとして注目されるはず。各地で議論が交わされているコンパクトシティーの実現にも、一石を投じる可能性がありますね。
また、2020年に開催される東京オリンピックでは、世界で初めて自動運転のタクシーが導入されることが発表されました。現段階では専用道路や優先レーンを中心とした運用になりそうですが、将来に向けた移動手段の拡大、労働力不足の解消といった面からも、大きな注目を集めています。
Fukuda's opinion
AIとは「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」と訳されます。1956年、アメリカのダートマス会議でジョン?マッカーシーにより命名されたものですが、実は今もその定義は非常に曖昧で、しっかりと決められているわけではありません。わたしは40年以上にわたりAIとロボットの研究に携わってきましたが、その間、人工知能を実現化するアプローチは随分と変化を遂げてきました。また、この分野には多くの流儀が存在しますし、専門家によってAIに対する見解もさまざまです。わたしの研究の目的は、人のためになるものをつくること。これから先 、人間とAI?ロボットが協力し合う世界をめざし、さらなる研究を続けていきたいと思います。