特設サイト第122回 漢方処方解説(69)調胃承気湯
今回ご紹介する処方は調胃承気湯(ちょういじょうきとう)です。
漢方薬はほとんどが内服薬ですので、その作用の第一の場は消化管です。そのため、いくつかの生薬は芳香性健胃薬や苦味健胃薬、辛味性健胃薬など健胃薬としての作用も併せもつことがありますし、瀉下や止瀉、整腸にはたらく生薬もあります。
調胃承気湯は主として便秘に用いる処方で、いろいろと種類がある中の一つです。以前、このコラムで取り上げた大黄甘草湯は、その名が示す通り、強い瀉下作用をもつ大黄に、その作用を緩和する目的で甘草が配合されたものと説明することができる処方で、体力や体質を考えることなく、常習性便秘に使えるものとされます。一方、同じく紹介したことがある桃核承気湯は、月経不順や月経困難など婦人科疾患における症状をもつ、漢方医学的には「瘀血」の兆候を示し、のぼせ(上焦)やイライラ、不安などの精神症状に加えて、便秘を訴える方に用いる処方です。この桃核承気湯もまた構成生薬として大黄と甘草を含み、さらに芒硝と桃仁、桂皮が加味されています。
調胃承気湯は、この大黄と甘草、芒硝からなる処方です。

大黄

甘草

芒硝
大黄の強い瀉下作用については、成分であるセンノシド類が腸内細菌叢による構造変換を受け、生じたレイン-アンスロンが腸管粘膜下のアウエルバッハ神経叢を刺激して、腸の蠕動運動を活発にするとか、腸管上皮細胞に発現する水チャネルのアクアポリン3の発現を抑制して、腸管管腔内の水分含量を増やして便を軟らかくするという作用メカニズムが明らかにされています。一方で、芒硝は硫酸ナトリウムを主成分とする鉱物生薬で、マグネシウム塩を主とし、浸透圧を上げて腸内の水分量を増やして便を軟らかくする浸潤性下剤と同じ作用メカニズムをもちます。
漢方処方の中には、以上の3処方のほかに、大黄?芒硝?厚朴?枳実からなる大承気湯(だいじょうきとう)や大黄?枳実?厚朴からなる小承気湯や大黄?枳実?厚朴?芍薬?杏仁?麻子仁からなる麻子仁丸(ましにんがん)もあり、さらに麻子仁丸の構成生薬に当帰?地黄?桃仁?黄芩?甘草が加味された潤腸湯(じゅんちょうとう)などの瀉下作用をもつ処方があります。それぞれ同じような瀉下作用をもつとはいえ、その特性を理解して使い分けできるようにしたいと思います。
(2025年6月6日)