特集自動運転が変える交通社会
経済学部 産業社会学科
山本 雄吾 教授/経済学部長
Yugo Yamamoto
関西大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。株式会社日通総合研究所にて経済研究部研究員を務めたのち、2008年より現職。研究分野は交通経済学、サービス経済学、物流論。交通経済ハンドブック(白桃書房出版)など著書多数。日本交通学会、日本海運経済学会、公益事業学会、日本物流学会に所属。
自動運転の実現により、道路運送事業における労働力不足や、過疎地域の交通弱者救済など、日本が抱える問題の解決が期待されている。
自動運転技術によってこの国が抱える社会課題を解決する
道路運送事業は、人間の労働力に頼る割合が大きい「労働集約型」の事業です。営業費用に占める人件費比率が高く、トラックで約3割、バスで約5割、タクシーでは7割以上に達します。そうした中、レベル5の自動運転システムの価格が市販車に搭載可能な水準まで低下すれば、わずかな減価償却費の増加で数百万円の人件費が不要になります。これにより、バスやタクシーの大幅なコストダウン、つまりは運賃引き下げが可能となり、社会のモビリティー向上に革新的な効果が表れると考えられます。
また、昨今の道路運送事業における深刻な労働力不足はもはや社会問題にもなっており、特に物流業界では長距離トラックのドライバー不足が顕著です。これに対して、高速道路上で数台のトラックを連続走行させ、先頭車のみドライバーが乗務し、後続車はすべて無人で先行車を自動追尾する「隊列走行」が2022年より実用化の見込みです。これにより、長距離ドライバーの所要人数は数分の一に削減されます。
もう1点、自動運転で注目を集めているのが交通弱者の対策です。過疎地域においては公共交通の撤退が相次いでおり、その地域に住む人々の移動手段の確保が大きな課題となっています。テスト段階ではありますが、すでに、特定のエリア?コースのみで運行する自動運転車両を導入している自治体も出てきています。
超高齢化社会、労働力不足、地域格差...。日本が抱える課題を解決する手段として、自動運転は、すでに不可欠な技術になりつつあるのです。
- 信号がなく歩行者のいない高速道路は、自動運転の実現が比較的容易。労働力不足の解消と、物流コストの削減が期待されています。
- レベル5の自動運転の実用化を待たず、特定の狭いエリアや道路に限った自動運転でも、過疎地域等の交通弱者問題軽減に大きな効果が見込まれます。とくに鉄道路線をバス専用道に転換した「BRT:Bus Rapid Transit」(バス高速輸送システム)は自動運転になじみやすく、これにより運賃引き下げや便数増加等の利便性改善が期待されます。
- 将来的に、お出かけしたいときにスマホ等で車を呼び出すと、無人で自宅前まで迎えに来て、目的地まで連れて行ってくれるという生活が一般的になり、レンタカー事業、カーシェアリング、タクシーの区分がなくなると考えられます。また、移動コストが安くなれば人が外出する機会が増えるので、健康寿命の延伸や地域経済の活性化も期待されます。