特設サイト第114回 閑話休題 ~用語について~
さて、久しぶりに処方解説をお休みさせていただいて、「用語」についてのお話をしたいと思います。
薬学部では、この春から二度目の改訂となる「薬学教育モデル?コア?カリキュラム」がスタートし、私が携わる科目も「薬用植物と生薬」「和漢医薬学」の二科目となりました。漢方医学の基礎やその薬物療法に用いる漢方薬についての講義は4年生の前期と、これまでと同じ時期に開講しますが、「薬用植物と生薬」については2年生前期から1年生後期にと開講時期を早めて行うこととしました。有機化学や物理化学、生化学や機能形態学、分析化学などとともに薬学専門教育の基幹科目群の一つとしての科目ですが、学生にとっては入学して初めての「くすり」らしい科目となります。いわゆる新薬や合成医薬品などの「化学薬品」とは異なる「天然物医薬品」としての「生薬」から学ぶことになります。
1804年、フリードリヒ?ゼルチュルナーがケシからモルヒネを単離したときに近代薬学が始まったとされますが、19世紀においては「くすり」と言えば、「生薬」の時代でした。もっと遡ると、漢方医学の基となった中国伝統医学の理論書や薬物書、処方集ができた漢王朝の時代は紀元前206年から西暦220年までですから、いわゆる科学の誕生以前から私たちは「生薬」を「くすり」として利用してきたのです。世界の五大文明の中では、同じように生薬をくすりとして活用してきたことがロゼッタストーンやパピルスに記されています。そんなところから「くすり」を紐解き、学んでいただくのですが、まずは、「用語」からです。
多くの初学者は、生薬を見ても、漢方エキス製剤を見ても、それらを「漢方」と呼んでしまいます。私たちが「漢方」と呼ぶとき、それは「漢方医学」を指します。「漢方薬」も一般的な呼称であり、私たちが使うのは「漢方方剤」や「漢方処方」であることが多いのです。略して「方剤」や「処方」ということもあるでしょうが、「漢方」とは呼びません。少なくとも2種以上の「生薬」を、漢方医学の理論に基づき、処方集に則って配合したものが「漢方方剤」です。そのため、それぞれの生薬を「構成生薬」と呼びます。
また、最初に漢方薬や生薬についての認識に関するアンケートを行うと、漢方薬は「粉薬」であり、「苦い」ものだという声が圧倒的です。一般的には「煎じ薬(煎剤)」などではなく、「エキス製剤」が身近であることがわかります。実際には、葛根湯などは「苦い」ものではなく、どちらかというと甘草や桂皮の甘みを感じるものなのですが、先入観でもあるのか「苦い」ものと思っているようです。もしかして、「不味い」=「苦い」のでしょうか。ただし、「不味い」は感想であって、「味」の表現ではありません。
このように、用語を正しく認識し、使い分けるところから専門教育は始まります。 他の分野でも同じですよね?
クロウメモドキ科ナツメの果実(八事キャンパス)
(2024年10月4日)