育て達人第127回 道山 弘康
農学部附属農場長 道山 弘康 教授(作物学)
海外に飛び出して専門性磨く体験を
研究活動でつながるグローバル交流
農学部の道山弘康教授は熱帯地方での栽培に適した作物を研究していることもあり、アフリカのブルキナファソ国でのゴマ栽培、インドネシアでのヒマ栽培などの指導や相談にのるためしばしば現地に赴いています。「グローバル時代では研究活動の成果を海外で生かすチャンスがさらに広がるはず」と語る道山教授に聞きました。
――学位論文は「ヒマにおける側枝の発育に関する研究」というテーマですね。
ヒマという植物はめちゃくちゃ特殊な油をつくります。脂肪酸のど真ん中にOH(水酸基)がついていて、油なのに水とはっきり分離しない。凍らないから昔は飛行機の潤滑油にも使われました。名城大学の教員になってからはゴマについても研究しています。ヒマとゴマは油という共通点はありますがゴマは食用、ヒマは工業用と用途は異なります。どちらも日本ではあまり栽培されていない作物。研究成果を実際も役立てもらうには、自分で外に出向くか、自分の論文を読んでもらうしかありません。インドネシアでヒマを栽培したいという日本企業の要請で、現地で講習会を開いたこともあります。
――アフリカではゴマ栽培を支援していると聞きました。
JICA(国際協力機構)の要請で2年前からアドバイザー役をしています。西アフリカのブルキナファソは金と綿の輸出で外貨を稼いできた国ですが、新たな現金収入の目玉としてゴマ栽培に力を入れています。ブルキナファソ国政府からの要請でJICAが、日本市場向けのゴマ栽培のプロジェクトに取り組んでいます。欧米向けのゴマと日本向けのゴマの大きな違いは香り。日本では炒った時の香りや味が商品価値を左右します。日本のバイヤーたちにもアフリカに来ていただいて、日本が買いたがっているゴマについて説明してもらいながら、そうしたゴマを安定供給するための栽培についてアドバイスをしています。
――沖縄では冬期栽培のソバの実現にも取り組んでいるそうですが。
ソバの研究を始めたのは信州大学に勤務した時です。江戸っ子の私はそばが大好き。10年ほど前、農林水産省の九州沖縄農業研究センターの研究員の方が訪れ、「沖縄でソバを栽培したいが、どのように栽培したらいいでしょうか」と相談されました。沖縄では、収穫が終わったサトウキビ畑から、雨と一緒に土砂が海に流れ込む。土砂からサンゴ礁を守るため、収穫が終わったサトウキビ畑でソバの栽培案が持ち上がったからです。サトウキビは夏に植えつけ、翌々年の冬の2月ごろ刈り取ります。台風シーズンを避け、サトウキビ畑に3月にソバをまき5月に実を収穫し、枝葉はそのまま畑に残せば土砂の流失防止にも効果があるのではないか。本土で新ソバが出回るのは10月ですから、5月までに収穫できたらソバの需要の多い8月に新ソバが供給できるのではというわけです。沖縄本島北部の大宜味村(おおぎみそん)で栽培が始まっていますし、宮古島でも始められています。
――沖縄といえば小麦粉100%の「沖縄そば」。ソバ粉の「そば」が沖縄にも広がるかも知れませんね。
沖縄は台風の影響もあって、本土に比べて栽培される作物の種類が少ない。冬にソバを栽培すれば栽培作物のメニューも一つ増えます。沖縄では「和そば」と呼んで、最近ソバ人気が高まっています。沖縄での主役はこれからもずっと「沖縄そば」であると思いますが、確かに「和そば」が食べられる店が徐々に増えているようです。インドネシアのヒマ、ブルキナファソのゴマ、そして沖縄のソバと、自分の取り組んできた研究が、今のところいずれもヒットしていますので研究の励みになります。
――研究活動を通して海外に出向く機会も多いのですか。
実は私が大学院生活を終えた間もないころ、日航ジャンボ機の墜落事故はありました。歌手の坂本九さんら520人が死んだ大事故です。恐怖心で40歳まで飛行機には乗れませんでした。32歳で日本熱帯農業学会賞という賞を最年少でいただいたんですが、海外には行ったことはありませんでした。熱帯農業の研究者がこれではまずいだろうと決意し、40歳の時、「東南アジア大陸部における農業の変貌」を調べる調査団に加えてもらいタイ全土を一周して調査したのが最初です。タイの物価の安さ、食べ物の違いなど日本との違いに驚きました。タイに続いてラオスも調査。国際ソバ学会で訪れたカナダでは北米大陸の雄大さに感動しました。学会仲間との交流も深まり、ソバ学会に参加するため韓国、チェコ、中国、ロシア、スロベニアも訪れました。
――グローバル時代に立ち向かう学生たちにメッセージをお願いします。
私の場合、幸いなことに、研究活動の延長線上に海外がありました。ただ、40歳前に海外に行くチャンスがあったら世界観や研究に対する姿勢も変わったかも知れません。ですからいろんな可能性を秘めた若いころはどんどん海外を体験すべきだと思います。ただ、自分で何かを持っていないとずっと観光旅行のままです。専門の知識、語学力を磨いてぜひ世界の人たちとの交流を広げてほしいと思います。
「本物の作物を見たことがない学生が増えており、授業では写真をどんどん見せています」と語る道山教授
道山 弘康(みちやま?ひろやす)
東京都出身。東京教育大学農学部農学科卒。筑波大学大学院農学研究科博士課程修了(作物学研究室)。農学博士。信州大学教育学部助手、名城大学農学部講師、助教授を経て教授。2011年から附属農場長。剣道7段(教士)で名城大学剣道部長。4年生の学生が13人いる研究室の始動は毎朝9時。遅刻は厳禁。