育て達人第052回 塩崎 万里
学生たちの心の健康と向き合いたい 他人の気持ちを理解することが成長の目安
大学院総合学術研究科、人間学部 塩崎 万里 准教授(健康心理学)
「心理学は実践的な学問。可能な限り現場での体験や実践を重視したい」というのが人間学部の塩崎万里准教授の持論です。学務委員、就職委員として学生たちと関わる機会も多い塩崎准教授に、心理学を教えながらの日頃の思いを、2010年の抱負も含めて語っていただきました。
――心理学との出会いはいつごろからですか。
「学生たちの心の健康に取り組みたい」と語る塩崎准教授
多くの国で暮らしたことも影響があるかも知れません。国によって言葉も文化も習慣も違うなかで、子どものころから、人の心を理解したいという思いから関心が培われたように思います。日本に臨床心理士の認定資格制度ができた初年度に資格を取得し、小児科医療の現場で臨床心理士の仕事もしました。3人の子育てに追われながら大学院にも復学しましたので、髪を振り乱しての日々でした。
――学校に適応できない子どもたちが増えています。
今でも横浜市教育委員会の専門相談員として不登校相談を主に担当しています。私が臨床心理学を始めたころは、学校に適応できない子どもたちといってもそれほど多いわけではありませんでした。ところが最近は驚くほど増えています。病院や学校で相談を受けるケースは氷山の一角で、裾野には助けを求めている子どもや保護者がたくさんいるのではないかと思います。子どもや保護者との面接を通して感じるのは、地道な予防策が必要ではないかということです。
――どんな予防策が必要だと思いますか。
子どもたちの心の健康を維持し、育んでいくために欧米諸国で実績をあげているのは、子どもたちに必要な知識を教える心の健康教育のプログラムです。義務教育の中に、心身の健康に関する科目が設けられています。日本では国語、算数、理科、社会という主要教科が中心の時間割で、保健体育の時間枠も余裕があるわけではなく、道徳科目にも割り込めない状態です。道徳教育では有名人やスポーツ選手を人生のお手本のように紹介したりしますが、お手本どおりに行かないのが人生です。失敗し、挫折しながら乗り越えていく人もいれば引いてしまう人もいます。そういう現実も含め、日本でも学校教育の中に心の健康についての知識を学ばせるプログラムを取り入れることが心の病の予防につながると思います。
――授業ではどんな科目を担当されていますか。
総合学術研究科では健康心理学特論、人間学部ではスクールカウンセリング、発達臨床心理学、臨床心理学などです。スクールカウンセリングは人間学部では2010年度から「学校教育相談」という名称で開講されますが、これは教職資格を目指す場合の必須科目です。健康教育プログラムの必要性については授業やゼミでも取り上げていますが、学生たちの関心も高く手ごたえを感じています。将来教壇に立ったら、ぜひ心の健康教育プログラムへの理解を学校現場に広めてくれればと思いますし、教員にならなくても、子どもを持つ親として心の健康教育を実践してもらえればと期待しています。
――学生たちに望むことは何ですか。
担当している授業の多くで、様々な困難に出合った人たちの事例を紹介しています。そして、そこで学んだことを自分や周囲に置き換えたときに、自分ならどうするかについて必ず書かせています。他人事と思ってほしくないからです。人間の成長は他者の気持ちをどこまで理解するかということが一つの目安だと思います。常に相手の立場に立ったらどう感じるかを考える生き方をしてほしいと思います。
――2010年の抱負をお聞かせ下さい。
学務委員として、学生指導という面でずっと学生たちの相談にあたってきましたが、アドバイスが必要な学生たちが年々増えています。アメリカの大学では、「ヘルシーキャンパス」という目標を掲げて、学生たちの心の健康度を高めるプログラムを実践しています。名城大学でも学業不振となった原因、対人関係の悩みなど蓄積されたデータを本格的に分析することで解決の糸口が見えてくるかも知れません。せっかく大学に入学しながら大学生活にうまく適応できない学生を見ていて、何かできることがあるのではないかと考えるようになりました。学生たちの心の健康のために、私なりの一歩を踏み出そうと思っています。
塩崎 万里(しおざき?まり)
聖心女子大学文学部教育学科卒、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。臨床心理士。2004年度から名城大学勤務。IUHPE(International Union for Health Promotion and Education)、日本健康心理学会、日本心理臨床学会、日本子ども健康科学研究会などに所属。