ナノサイエンスの先駆者?飯島澄男終身教授
国際会議「CNT25」基調講演
カーボンナノチューブ発見25周年で国際会議
飯島終身教授が基調講演
基調講演する飯島澄男終身教授=東京都千代田区のイイノホールで
カウピネン教授(左)からサプライズのプレゼントをもらう飯島氏
飯島澄男終身教授が1991年にカーボンナノチューブ(CNT、筒状炭素分子)を発見してから25周年になるのを記念した国際会議「CNT25」が11月15日から18日まで、東京で開催されました。開会セッションは初日に東京都千代田区のイイノホールで開かれ、飯島氏は基調講演を流暢な英語で行いました。
基調講演者の紹介で、飯島氏のナノサイエンス関係の論文の引用が世界的に増えている現状が示されました。飯島氏は「Discovery of carbon nanotubes and beyond(CNT発見とその後)」と題して講演しました。
飯島氏は高分解能電子顕微鏡による炭素分子の研究がCNT発見のベースになったことを時系列で解説しました。サッカーボール状の炭素分子、フラーレン(C60)が1985年に発見され、発見者の3人は1996年にノーベル化学賞を受賞しましたが、飯島氏が撮っていたC60のタマネギ状の電子顕微鏡写真が、推定された分子構造に対する唯一の科学的裏付けとなったことを示しました。C60の分子構造は、日本の魚捕獲用かごで見られる五角形、六角形、七角形の網目の組み合わせと類似していることも図示しました。
CNTは直径1mmのワイヤで1tの自動車をつり上げられるほどの引っ張り強度があるなどすぐれた機械的特性をもちます。その実用化について飯島氏は「決定的なものはまだありませんが、あとわずかだと思う」と、集まった各国の大学や研究機関、企業の研究者に期待をかけました。
質疑応答では、飯島氏がCNTの発見をセレンディピティ(serendipity、偶然の幸運)と言っていることの真意を尋ねる質問が上がりました。飯島氏は「科学史に残る偉大な発見の半分以上は偶然の発見ですが、発見にはオープンマインドの姿勢をもつことが重要です」と答えました。
飯島氏は2014年からフィンランドのアールト大学名誉教授でもあります。同大学からは、ヨーロッパのCNTの応用研究の第一人者でもあるエスコ?カウピネン教授が来日し、産業応用に関する研究発表を行いました。同教授は発表後、ステージ上で飯島氏にプレゼントを手渡しました。事前に知らされていないサプライズの演出で、飯島氏は感激していました。
CNT25で一緒に写真に納まる(右から)湯村氏、飯島氏、畠氏
飯島氏は国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)ナノチューブ応用研究センター長を2001年から2015年まで務めました。飯島センター長の下で応用研究をした湯村守雄氏(産総研ナノチューブ実用化研究センター首席研究員)と畠賢治氏(産総研ナノチューブ実用化研究センター長)もCNT25に出席しました。湯村氏は主催者側の実行委員、畠氏はカウピネン教授同様、産業応用に関する研究発表を行いました。
両氏には事前に、茨城県つくば市の産総研で実用化の現状と飯島氏の人となりについてインタビューしました。
湯村氏は1991年に飯島氏がネイチャー誌にCNTの発見を発表した翌年、産総研で開かれた講演を聞いてCNT量産技術研究への道を決めました。化学工学が専門で、炭素物質の中からきれいなCNTを分離する研究を続け、CVD法というやり方で1999年に日産200gの多層CNTを作れるようになりました。
産総研では、2000年度に量産法を専門的に研究する組織としてCNTの研究センターの設立を計画し、飯島氏にセンター長就任を依頼。センターは2001年1月に新炭素系材料研究センター(2008年4月にナノチューブ応用研究センターに名称変更)として正式に発足し、湯村さんは総括主任研究員、副センター長として支えました。
「スタッフは、飯島氏の知名度を利用して一騎当千の研究者を集めました。その1人が畠さんです」と湯村氏は紹介しました。
畠氏はアメリカのハーバード大学のポスドク時代、職を求めて産総研に履歴書を出したら飯島氏の目に留まったといいます。「採用に際して、アメリカのトップの研究室に行ったのに成果を出していないという指摘があったそうですが、飯島さんは逆に、産総研で爆発すると思ったといいます」と畠氏。飯島氏は畠氏の可能性を汲み取り、畠氏もそれに応えて2004年、スーパーグロース法と呼ぶ単層CNTの量産方法を開発しました。化学メーカーの日本ゼオンは2015年11月、山口県周南市に単層CNTの世界初の製造工場を建設、稼働させました。スーパーグロース法がその技術の基盤になっています。同社は2016年11月、ゴムに炭素繊維と少量の単層CNTを混ぜた複合材シートの製品化にこぎ着けたと発表しました。
飯島氏の人となりについて湯村氏は「集団をまとめる農耕型ではなく、面白い研究対象を自分で見つけて単独でも山に分け入る狩猟型」と表現します。畠氏も同様の見方です。「ナノチューブ応用研究センターには約100人の研究者がいましたが、飯島さんは言葉でぐいぐい引っ張っていくタイプではなく、研究している自分の背中で引っ張っていくタイプ」と評します。「飯島さんと話すと元気をもらえ、前向きになれる。研究者のイデア(本質)のような人」とも語りました。
名城大学 渉外部(広報)
〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口1-501
TEL:052-838-2006 E-mail:kouhou@ccmails.meijo-u.ac.jp