10月25日、第38回全日本大学女子駅伝対校選手権大会(通称:杜の都駅伝)が開催された。宮城県仙台市の弘進ゴムアスリートパーク(仙台市陸上競技場)をスタート、仙台市役所前市民広場をフィニッシュとする6区間38.1kmのコースで行われ、オープン参加を含む全25校が出場。午後0時10分のスタート時の気温は18度、晴天の駅伝日和のなか、大会は幕を開けた。
集団を引っ張ってレースを作る和田選手
粘る立命館大学西原選手を突き放す山本選手
勝負の先行きを左右する重要な1区(6.6km)には3年生の和田有菜選手が起用された。1年生だった2018年、コース変更前のこの区間で区間賞を取っており、経験は十分。「後の区間のみんながテレビ中継車だけを追って走れるように、ここでトップに立つ」と意気込んでいた通り、中盤から先頭を走って積極的なレース展開を自ら作った。ラストで立命館大学の飛田凜香選手にかわされ2位となったものの、1位との8秒差の好位置でたすきをつないだ。
3.9kmの最短2区を走ったのは山本有真選手(2年)。1km付近で早くも立命館大学に追いつき、首位争いを繰り広げた。ラスト300m付近でスパートすると、立命館大学に7秒の差をつけトップで中継した。個人成績は12分31秒の区間2位。「今年はケガでいい結果が出せない状態が続いていたので、この大会で結果を残したいと思っていました。区間賞まであと1秒届かなかったのがとても悔しいですが、この気持ちは12月の富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)に向けていいバネになると思います」と次につながるレースになった。
驚異的な成長を遂げ区間記録を更新した小林選手
3区6.9kmを担ったのは小林成美選手(2年)。「今年は先輩という立場になったので、次の区間で待つ1年生の増渕(祐香)選手が気持ちよく走れるように、私がタイムを稼ぐんだという気持ちで走りました」と、前へ前へと足を進める。山本選手が作ったリードをどんどん広げ、この区間で名城大学の独走態勢を築いた。3区終了時点で2位の立命館大学に1分03秒の大差をつけ、勝利への道筋をつけた。個人成績では区間賞獲得、さらに昨年、鈴木優花選手(大東文化大学)が作った区間記録を7秒上回る21分37秒の区間新を達成。「成長した姿を見せられてよかった」と、今年の躍進ぶりを全国に示した。
1年生ながら結果を残しチームに刺激を与えた増渕選手
4区(4.8km)ではルーキーの増渕選手が大学駅伝デビュー。米田勝朗監督が「試合でしっかり力を発揮できる選手を選んだ」と話すように、10月11日の長崎?諫早でのナイター記録会で5000m16分00秒11の自己ベストを出し、チーム内上位に食い込んだことを評価されてメンバー入りを果たした。その期待通りの走りで区間賞を獲得。区間記録まであと2秒の15分40秒という上々の結果に、本人も驚きを隠せなかった。「初めての駅伝で区間賞が取れるとは思っていませんでした。緊張しましたが、本番前に(加世田)梨花先輩が『(次の区間に)私がいるから大丈夫』と声をかけてくれて、自分らしく楽しく走れました」と振り返った。
4年間の集大成として最高の結果を残した加世田選手
最長9.2kmの5区を走ったのは主将の加世田選手(4年)。1年生から4年連続でこのエース区間を任されているチームの大黒柱だ。たすきを受けた時点で2位?立命館大学との差は1分39秒という大量リードだったが、攻めの姿勢を貫く走りを見せた。後方では大東文化大学や日本体育大学が追走し、順位を上げてきていたが、加世田選手はそれをさらに上回るペースを刻み、その差は開くばかり。2015年に作られた区間記録29分24秒(太田琴菜?立命館大学)を5年ぶりに更新する29分14秒で走りきり、目標としていた区間記録更新を見事達成した。「私にとってこの区間は特別な存在。少しずつですが1年ごとにタイムを縮めることができ、大会を通じて自分の成長を皆さんに見届けてもらえたのではないかと思います。集大成の走りができてよかったです」。最後の杜の都駅伝で、笑顔でたすきを渡した。
「4連覇」サインで髙松選手を迎えるメンバーたち
最終6区(6.7km)は髙松智美ムセンビ選手(3年)が任された。中継所では2位?日本体育大学との差が2分52秒と、かなり大きなアドバンテージがあったが、油断することなく走り始めた。先頭での独り旅に「苦しい場面もありましたが、フィニッシュ地点でみんなが待っていると思うたびに、力が湧いて最後まで走れました」と区間2位の好走でたすきをゴールまで運んだ。チームメイトが「ともみ! ともみ!」とコールし、4本の指を立て「4連覇」を表現して待つ中、髙松選手も同じポーズを作ってフィニッシュテープを切った。
大きくジャンプしてゴールに飛び込む髙松選手
総合タイムは2時間2分57秒で、昨年出した大会記録を1分37秒も短縮する大会新。2位?大東文化大学とのタイム差も2分51秒と、昨年(2分31秒差)よりさらに広げての圧勝劇となった。この大会でこれまで4連覇を達成したことがあるのは京都産業大学、立命館大学のみで、それに続く史上3校目の快挙を達成した。
チームの指揮官である米田監督は「レベルの高い目標を持ってほしくて、『全員が区間賞での完全優勝』にチャレンジさせました。結果的には到達できず100点満点とはいきませんでしたが、思い描いていた通りのレース展開で力強い走りを見せてくれました」と納得の表情だった。
3人が区間賞、3人が区間2位で、選手層の厚さは他大学の追随を許さない。今年は補欠選手も含め、チームの充実ぶりは過去と比べても際立っていたようだ。「正直なところ、これまでは大会に出る6人と、7番目の選手の間にははっきりした差がありました。しかし今年は各選手の力が拮抗していて、メンバーに入れる、入れないは紙一重でした」と米田監督が話すように、杜の都を走ることができなかった選手のレベルも例年以上のものだった。
今大会にエントリーされながら出場が叶わなかった荒井優奈選手(2年)、鴨志田海来選手(3年)、井上葉南選手(3年)の3名は大会当日の朝、近隣の公園で3kmのタイムトライアルを行い、最も速かった鴨志田選手は9分25秒の好タイムを出すという隠れた一場面があったそうだ。「彼女たちも、この日に走れるよう、ここまでしっかり準備してきた選手です。補欠でもこれだけのタイムで走れるということで、出場するメンバーに勇気を与えたと思います」と、監督は取り組みの姿勢を高く評価した。このタイムトライアルは例年実施しているわけではなく、大会の前日に選手たちがタイムを計測してほしいと申し出て、監督も選手の気持ちを汲み、予定外のことではあったが実行に至ったそうだ。3選手はレース前日の優勝旗?優勝杯返還式にチームを代表して出席するなど、出走した選手たちとはまた違った役割をしっかり務めていた。
今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、陸上界でも延期や中止となる大会もあったなか、この大会は無事、日程通り実施された。そのためレース後の優勝会見では、どの選手も開口一番に開催への感謝の言葉を述べていた。小林選手は「今大会を運営してくださった方々へ感謝の気持ちでいっぱいです。その想いがあったからこそ、駅伝を走れる楽しみが噛み締められました」と喜びを語った。
沿道での応援は自粛が呼びかけられており、例年になく歓声の少ないなかでの駅伝となったが、各選手とも大会前に受け取った応援メッセージを力にして走り始めることができたと謝意を表した。「テレビカメラの向こう側で多くの方々が応援してくれていることを想像すると、力が湧きました」と話したのは和田選手。名城大学ではパブリックビューイングが行われ、「大学の皆さんにも元気のある姿を届けたい」という米田監督の想いも画面を通じて伝わったことだろう。異例の状況下でも力を出し切り、全国の駅伝ファンを勇気づける走りだった。
12月30日には富士山女子駅伝が行われる予定で、3年連続の学生女子駅伝2冠へ向けて視界は良好だ。「まだ具体的なプランはまとまっていませんが、高いモチベーションで準備して、さらに強い駅伝を見せたい」と米田監督はさらなる飛躍を誓う。
主将?加世田選手も「私にとっては名城大学での最後の駅伝になるので、有終の美を飾りたいと思っています。チームとしても、次こそ全区間区間賞を達成し、大会新での優勝を目指します」と目標に向けて熱意がみなぎっている。
この困難な年を笑顔で締めくくるべく、次への挑戦はもう始まっている。
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